車のガラス窓には。

車の窓ガラスには。
自分がどんなふうに歩いているのか、知りたい。
ちゃんと姿勢よく歩いているのだろうか。
ぼくは以前、「猫背」だと言われたことがある。
でも、姿勢が悪いことのたとえに猫を持ち出すのは、猫に対して失礼ではないだろうか。(笑)
ショーウィンドウに映る自分の姿を、さりげなく確かめている女性を見かけることがある。
映画『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウェイのように、胸を張って颯爽と歩けているか、見ているのだろうか。
ぼくの場合は、少し違う。
刑事コロンボのように、のそのそ歩いていないかを確かめている。(コロンボにも失礼!笑)
ただでさえ猫背で、おまけに右膝を痛めている。
無意識に右足をかばうような歩き方になっていないか、気になるのだ。
ところが、そんなときに限って、ショーウィンドウのガラスには街の風景が映り込み、自分の姿がよく見えない。
そこで、路上に停まっているワゴン車の、黒いスモークのかかった窓に自分の姿を映してみることがある。
車の窓ガラスには、少し猫背の男が、右膝をかばいながら歩いている。
やっぱり、格好よくはない。

窓の中では、走っている。
けれど、じっと見ていると、窓に映った男が、ふいに走りはじめる。
ランニングシャツ姿で腕を振り、ゴールへ向かっている。
空は青く、遠くには夕焼けが広がっている。
沿道では、大勢の人たちが手を振っている。
現実のぼくは、右膝をかばいながら歩いている。
それでも窓の中では、今も走りつづけている。